ネット上の名誉毀損による相談件数は減ってきていると言われていますが、まだまだ被害に遭われる方は少なくありません。
<サイバー犯罪による名誉毀損の相談件数の推移>
平成21年 | 平成22年 | 平成23年 | 平成24年 | 平成25年 |
11,557件 | 10,212件 | 10,549件 | 10,807件 | 9,457件 |
参照:「平成25年中のサイバー犯罪の検挙状況について|警視庁サイバー犯罪対策」
ネット上で、名誉毀損された方は、加害者を訴えたい気持ちになると思いますが、訴えることができる期間には時効が設けられているのをご存知でしょうか。
名誉毀損で訴えたい方は、当然ながら時効期間を迎える前に相手側を訴える必要がありますが、そのためには訴える方法について知っておくべきです。
今回の記事では、名誉毀損に関する時効期間、名誉毀損で訴える方法について紹介していきます。
名誉毀損が無効になるまでの時効期間とは?
では、早速ですが名誉毀損の時効期間について説明していきます。
公訴時効
まず、誹謗中傷を行った相手を名誉毀損罪で罰するためには、被害者が刑事告訴を行わなければなりません。刑事告訴を行った結果、検察官が被疑者に対して訴えを提起(公訴)して、判決が有罪と認められて初めて有罪となります。
この検察官が公訴する期間には、時効が設けられていて、犯罪行為が終わってから数えて3年間です。
刑事告訴が可能な期間
また、刑事告訴できる期間にも同様に時効期間が設けられています。刑事告訴できる期間は、犯人が特定できてから6ヶ月です。犯人の氏名・住所が判明していない場合でも、特定できた段階でこの期間は数えられます。
損害賠償請求権の消滅時効期間
誹謗中傷を受けた方によっては、名誉毀損によって受けた損害の賠償金を請求したいでしょう。この場合、当事者同士が民事の裁判で争うことになりますので、警察、検察官が関与することはありません。
損害賠償するための請求権には時効が設けられていて、
- 加害者の存在を知ってから3年
- 不法行為から20年間
上記の内のどちらか早く期間を迎えた方が時効期間になります。
名誉毀損罪の逮捕・損害賠償の事例
では、実際に名誉毀損罪による逮捕の一例、名誉毀損で損害賠償請求した過去の事例について紹介していきます。
逮捕事例
名誉毀損罪の逮捕事例として、福岡県の整形外科医師と医師が経営する整形外科医院でバイトしていた専門学生が、名誉毀損罪として2017年5月に逮捕されました。
加害者は、知人女性の近辺の会社、関係者へ「彼女は近々、逮捕される」などの情報をファックスで送りつけたことから、女性は警察に相談したところ警察は逮捕に踏み込みました。
参照:「名誉毀損で医師逮捕 「近々逮捕の情報も」と知人女性中傷のファクス送る|産経ニュース」
損害賠償の事例
インターネット上で生じた名誉毀損による損害賠償請求として、歯科医師が行政に対して行った裁判があげられます。歯科医師は、厚生省が歯科医師の登録免許処分の情報を、免許の登録可能後にもホームページに掲載し続けたため、社会的信頼がなくなったことを原因に行政へ慰謝料請求しました。
国が歯科医師へ30万円の慰謝料を支払う内容に判決がまとまりました。
名誉毀損罪で刑事告訴するためには?
では、名誉毀損罪で刑事告訴するためにはどうすればいいのでしょうか。
対象の誹謗中傷行為が名誉毀損罪に該当するか確認する
まず、刑事告訴するためには警察に告訴状を提出しなければなりませんが、その前に訴えを法的に正当化する必要あります。
第二百三十条
第一項:公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第二項:死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
引用元:「刑法第二百三十条」
名誉毀損罪が成立する要件は、主に以下の3つです。
- 社会的評価を下げる言動
- その言動が真偽を確かめることができる内容
- 公然の場であること
例えばですが、「Aさんは前科がある」とネット上に掲載する行為は、名誉毀損罪に該当します。
Aさんが過去に犯罪を行った行為は、事実確認することができる上に、ネット上に掲載するのはAさんの社会的評価を下げる行為です。
ここで実際に過去に犯罪を行ったかどうかは問題ではありません。また、第三者の評価を落とす行為であることが要件であるので、1対1で罵る行為は、名誉毀損罪になりません。
名誉毀損罪が免責される場合とは
名誉毀損罪が成立する要件を満たしていたも、名誉毀損罪が成立しない場合があります。
- 公的に利害が絡んでいる(公共性)
- 利害を目的としている(公益性)
- 真実である(真実性)
上記の3つの要件を満たしている場合です。例えばメディアが会社の不正を暴く報道は、一般的には上記の3つの要件を満たしているものといえるでしょう。
告訴状の提出
誹謗中傷行為を、法的な面で名誉毀損罪に該当することがわかったら今度は、告訴状を作成してください。
告訴状には、被害内容や、被害内容がなぜ名誉毀損罪に該当するのかを記載します。告訴状が完成したら、誹謗中傷の証拠(実際に書き込みが行われたサイトを印刷したものなど)と一緒に警察に提出しましょう。
告訴状提出後の流れ
警察は事件性があると判断した場合、加害者は逮捕されます。加害者は留置所へ10日間、勾留されますが、検察官の判断次第で刑事裁判が起訴されます。
もし、加害者への金銭請求を望む場合、罪状を軽くする代わりに示談金を請求することができるので、示談交渉をしましょう。
名誉毀損で損害賠償する方法とその手順
名誉毀損を受けた方によっては、誹謗中傷をした相手を損害賠償で訴えたいと思う方もいるでしょう。
投稿者の身元の特定
誹謗中傷をした相手の素性が判明している場合は、損害賠償請求をすることができますが、ネット上など匿名性の高い場所で誹謗中傷を受けた場合、まず相手の身元を特定しなければなりません。
管理会社へ発信者情報開示請求
投稿者の身元を特定するにあたり、まずIPアドレスを取得するために書き込みが行われたサイトの管理者へ発信者情報開示請求を行います。
請求に応じない場合は、発信者情報開示請求の仮処分の申立を行ってください。
プロバイダ会社へ発信者情報開示請求
この請求によって取得したIPアドレスを元に、「IP SEACH」にてプロバイダ会社を特定します。次に、プロバイダ会社へ発信者情報開示請求を行いますが、請求に応じない場合は裁判所にて仮処分の申立を行ってください。
請求は個人で行っても応じて貰えない場合もあるので、弁護士に依頼するのが一般的です。また、ネットの誹謗中傷者を特定する方法として「ネット誹謗中傷」を参考にしてください。
損害賠償請求
プロバイダ会社から発信者情報開示請求に応じて貰えたら、書き込み主が特定されます。書き込み主が特定されたら、今度は書き込み主へ書面、または対面を通して損害賠償請求を行いましょう。
もし、話合いが上手くまとまらない場合は損害賠償請求を裁判所にて申立ててください。
名誉毀損による訴えは弁護士に依頼するべきなのか?
名誉毀損による訴えは弁護士に依頼することが一般的ですが、弁護士に依頼するべきかどうかは依頼する人の状況次第です。
慰謝料の相場と弁護士費用を元に検討する
もし慰謝料請求を望んでいる場合は、慰謝料の額と、弁護士費用を見比べる必要があります。
名誉毀損による慰謝料の相場は以下の通りです。
- 一般的な名誉毀損:10万円~50万円
- 事業者が名誉毀損を受けた場合:50万円~100万円
- ヌード写真が公開された:100万円~
それに対して、弁護士費用は以下の通りになります。
着手金 | 報酬金 | 裁判費用 | ||
投稿者の身元特定 | 裁判外 | 約5万円~10万円 | 約15万円 | × |
裁判 | 約20万円~30万円 | 約15万円~20万円 | 6万円 | |
慰謝料請求 | 裁判外 | 約10万円 | 慰謝料の16% | × |
裁判 | 約20万円 | 慰謝料の16% | 3万円 |
弁護士費用は、身元特定から慰謝料請求まで依頼した場合、30万円以上の費用がかかりますが、それに対して個人の方が名誉毀損で訴えた場合の慰謝料の相場は10万円~50万円です。
そのため、案件によっては弁護士費用の元が取れないかもしれないので、案件を依頼する前に、弁護士とよく相談するべきでしょう。
弁護士に依頼するメリット
また、損害賠償する上で弁護士に依頼するメリットは以下の通りになります。
- 個人で行った場合と比べてサイトの管理会社・プロバイダ会社が情報開示請求に応じやすくなる
- 個人で行った場合と比べて高額な慰謝料の額が見込める
- 裁判所の申立手続き・法定の代理人を務めてもらうことで手続きの負担が減る
刑事告訴する方は弁護士に依頼するべき
刑事罰で相手を罰したいと思っている方は、弁護士に依頼した方がいいと思います。弁護士が告訴状を作成することで、警察に事件として取り扱ってもらいやすくなるからです。
また、刑事告訴後も検察官が起訴した後の流れのサポートまで行ってもらうこともできます。
まとめ
名誉毀損と思われる行為を受けた方は、時効が訪れる前に訴えを提起するべきでしょう。現在、名誉毀損で訴えることを検討している方は、一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。