日本版司法取引とは|2018年6月施行した新制度の概要

司法取引(しほうとりひき)とは、被告人が事件に関する事実を供述する、または捜査の協力などによって検察による求刑の軽減や罪状の取り下げを行うことです。

日本では、2016年5月刑事訴訟法が改正され2018年6月1日から試験的に施工されました。この記事では、司法取引を認めた改正刑事訴訟法の概要やメリット・デメリットなどについてお伝えします。

 

司法取引を取り決めた『改正刑事訴訟法』に関する5つのポイント

上述しましたが、刑事訴訟法の改正によって刑事裁判に司法取引が導入されました。この章では改正刑事訴訟法の5つのポイントをご説明します。

①司法取引の要件

司法取引が成立するためには3つの要件があります。

1. 他人の刑事事件に関する捜査協力

日本 アメリカ
司法取引内容 他人の犯罪行為の申告、自己に不利な証言 自分の罪を認める
司法取引をするタイミング 捜査・公判中 裁判所

日本の司法取引の特徴は他人の刑事事件に関する捜査協力で罪の減刑がされることです。自分の罪を認めることが減刑につながるアメリカの司法取引とは異なります。

2. 特定の犯罪に関わる被疑者・被告人に限られる

以下の犯罪に関わった被疑者・被告人のみ司法取引を行う権利があります。

分類 罪名
競売妨害等(刑法第96条~刑法第96条の6|刑法 封印等破棄剤
強制執行妨害目的財産損壊罪
強制執行行為妨害罪
強制執行関係売却妨害
加重封印等破棄剤
公契約関係競売等妨害
文書偽造等(刑法第155条・刑法第157条・刑法第158条・刑法第159条~刑法第163条の5|刑法 公文書偽造罪
虚偽公文書作成罪
公正証言原本不実記載罪
偽造公文書行使罪
私文書偽造罪
虚偽診断書作成罪
偽造私文書行使罪
電磁的記録不正作出罪
有価証券偽造罪
偽造有価証券行使罪
支払用カード電磁的記録不正作出罪
不正電磁的記録カード所持罪
支払用カード電磁的記録不正作出準備罪
贈収賄(刑法第197条~刑法第197条の4・刑法第198条 収賄罪
受託収賄罪
事前収賄
第三者供賄材
加重収賄罪
事後収賄罪
あっせん収賄罪
贈賄罪
詐欺・恐喝(刑法第246条~刑法第250条・刑法第252条~刑法第254条|刑法 詐欺罪
電子計算機使用詐欺罪
背任罪
恐喝罪
横領罪
業務上横領罪
遺失物等横領罪
組織的競売妨害等組織的詐欺・恐喝
(引用:組織犯罪処罰法3条1項1号~4号・13号・14号・4条|電子政府の相談窓口e-Gov
組織的封印等破棄罪
組織的強制執行妨害目的財産損壊罪
組織的強制執行行為妨害罪
組織的強制執行行為妨害罪
組織的強制執行関係売却妨害罪
組織的詐欺罪
組織的恐喝罪
マネーロンダリング(組織犯罪処罰法10条・11条 犯罪収益等隠匿罪
犯罪収益等収受罪
財政経済関係犯罪 租税に関する法律
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
金融商品取引法に規定する罪
その他財政経済関係犯罪として政令で定めるもの
薬物・武器関係犯罪 爆発物取締り法
大麻取締法
覚せい剤取締法
麻薬及び向精神薬取締法
武器等製造法
あへん法
鉄砲刀剣類所持取締法
国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬物取締等の特例等に関係する法律に違反する罪
特定犯罪についての証拠隠滅等 特定犯罪の犯人についての蔵匿罪、証拠隠滅罪、証人威迫罪、組織的な犯罪人係る犯人蔵匿罪等

 

弁護人を必ずつけること

司法取引を行うためには、必ず弁護人を付ける必要があります。司法取引を行うときに弁護人の同意が要件となっているからです。

②取調べが録画されるように

威圧的、または誘惑的な取調べが原因で、被疑者がやってもいない罪を認めてしまう可能性があります。こうしたケースを抑制するため取調べを可視化できるようになりました。

③通信を無断で受信してよい犯罪の拡大

以前から特定の4種類の犯罪にかかわる通信(電話やメールなど)を無断で警察が受信することは許されていました。2016年の刑事訴訟法改正により対象とする犯罪が13に拡大され、以前よりも多くの犯罪を未然に防げる可能性が上がると考えられます。

対象の犯罪類型は以下の通りです。

元々の対象犯罪類型 新しく追加された犯罪類型
①     薬物②     重機③     集団密航④     組織的殺人 ①     爆発物の使用②     殺人③     傷害④     放火⑤     誘拐⑥     逮捕監禁⑦     詐欺⑧     窃盗⑨     児童ポルノ

以前は犯罪者たちの通信を受信する際には、通信事業主との立ち合いが必要でした。しかし、対象の拡大にあわせて、その立ち合いも不要になったため、警察の捜査がさらに強化されるでしょう。

④具体的な捜査協力の内容

  • 検察官・検察事務官・司法警察職員の取調べに対して、かかわりのある犯罪者の犯罪事実を明らかにする
  • かかわりのある犯罪者の刑事裁判の証人として尋問を受ける際に真実を供述すること
  • かかわりのある犯罪者の犯罪事実を明らかにする証拠を提出すること
  • ①~③に付随し、合意の目的を達成するために必要なことを行うこと

(参考:刑事訴訟法等の一部を改正する法律案|法務省)

⑤捜査協力の見返りとしての減免行為の内容

  • 起訴しないこと
  • 起訴を取り消すこと
  • 特定の訴因・罰条により、公訴を提起・維持すること
  • 特定の訴因・罰条を追加・撤回・変更を裁判所に請求すること
  • 被告人に特定の刑を科すべき理由を述べること
  • 簡易な手続きで起訴すること
  • ①~⑥に付随し、合意の目的を達成するために必要なことを行うこと

(参考:刑事訴訟法等の一部を改正する法律案|法務省)

 

日本の司法取引のメリット・デメリット

日本に司法取引が導入されたことによって生じる可能性が高いメリットとデメリットをお伝えいたします。

日本の司法取引のメリット|組織犯罪被害者の減少が見込まれる

司法取引が導入されたことによるメリットは、犯罪の被害者が減少することです。人数が多い組織的な犯罪は、1人を捕まえても犯罪は減りませんが、逮捕者の証言があればより多くの犯罪者を捕まえることができます。

日本の司法取引のデメリット|犯罪が増加する可能性がある

司法取引のデメリットは「司法取引をすれば刑が軽くなるからいいや」と、犯罪行為の後押しになってしまう可能性があることです。

司法取引の進め方

『検察側』or『被疑者(被告人)&弁護士側』のどちら側からでも司法取引を申し入れることは可能です。一般的には検察側から被疑者・被告人のメリットを提示した上で、捜査への協力を求めることが多いようです。

司法取引が成立した場合の扱い

司法取引が成立した場合、検察官・被疑者・被告人および弁護士の全員が署名した合同書面を作成します。そして作成した書面を裁判で提出し、受理されると求刑が軽減されるなどの対処が行われます。

司法取引が成立しなかった場合の扱い

司法取引が成立しなかった場合はどのようになるのかを見ていきましょう。

司法取引が終了する事由

合意違反

『検察側』or『被疑者(被告人)側』のどちらかが合意の内容に反することをした場合は、約束を破られた方が合意から離脱することが可能です。例えば、被疑者側の証言の拒否や合意通りの調書作成の拒否が考えられます。

検察官の離脱

以下の3つの場合において検察官が合意を離脱することを認めています。

  • 被疑者・被告人が協議の過程で供述した他人の刑事事件についての内容が事実とは異なることが明らかになった場合
  • 被疑者・被告人が合意に基づいて供述した内容が事実とは異なることが明らかになった場合
  • 被疑者・被告人が合意に基づいて提出した証拠品が変造・偽造されたものであると明らかになった場合

検察審議会による議決

被疑者・被告人と検察の司法取引に関する合意に基づいた協議の結果、被疑者・被告人が不起訴になったとしても、検察審査会の審査の対象になり、起訴される可能性があります。その際には司法取引の合意は効力を失います

被疑者・被告人の離脱

以下の4つの場合において被疑者・被告人が合意を離脱することを認めています。

  • 合意に基づいて検察官が行った訴因、罰条の追加・変更・撤回についての請求を裁判所が認めなかった場合
  • 合意に基づいて検察官が軽い求刑を裁判所に行ったにも関わらず、裁判所が検察官の求刑よりも重い刑をいい渡した場合
  • 合意に基づいて検察官が即決裁判手続きの申し立てをしたにも関わらず、裁判所はそれを却下する、または即決裁判手続き(※)により審理することの決定を取り消した場合
  • 合意に基づいて検察官が略式命令を請求したにもかかわらず、裁判所が通常裁判によって審理することとした場合、または略式命令に対して検察官が正式裁判の請求をした場合
※即決裁判手続き
事案が箔で軽微なときに、行われる手続き。この裁判の結果によって懲役・禁固を科す場合には必ず執行猶予が付く。

司法取引が終了した際の証拠の取扱い

被疑者・被告人が検察官との協議において提供した物品や供述は、原則として裁判にて証拠品とすることができません。

 

アメリカで開かれる9割の刑事裁判で司法取引が行われる理由

アメリカで開かれる刑事裁判のうち9割の裁判において司法取引が行われています。その割合の高さには2つの理由があります。

誰でも司法取引を行なうことができるから

自分の罪を認めることがアメリカの司法取引なので、自分の罪を認めることで誰でも司法取引を行なうことができます。このことが高い司法取引率につながっているのでしょう。

裁判所で証言して初めて司法取引成立なのかわかるから

アメリカの司法取引は捜査段階や起訴判断段階などではなく、刑事裁判中に初めて証言が行われます。そのため、証言してみるまで刑がどれほど軽減されるかわからないことも高い司法取引率に起因していると思われます。

 

まとめ

この記事では以下の5つのポイントについてお伝えしました。

  1. 日本の司法取引のメリット・デメリット
  2. 司法取引の進め方
  3. 司法取引が成立した場合の扱いについて
  4. 司法取引が成立しなかった場合の扱いについて
  5. アメリカで開かれる9割の刑事裁判で司法取引が行われる理由

まだ司法取引は施行されてから日が短いですが、組織的犯罪を防ぐためにも重要な制度の一つです。ただ、冤罪のリスクもありますので、さまざまな面を鑑みて対処していく必要があるでしょう。

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