死後離婚(しごりこん)とは、配偶者の死後に「姻族関係終了届」を提出することで、姻族(義理の両親や兄弟)との縁を一方的に切ることを言い、近年NHKなどのTVメディアや週刊現代といった雑誌で取り上げられることの多い行為になります。
法律用語ではありませんが、姻族関係終了届をお住いの地域の市役所に提出することで完了し、費用も無料という比較的簡単にできる手続きです。
法務省が公表している「戸籍統計(平成27年度)」によると、平成18年度(1,854件)からその数は増加の一途を辿り、平成27年ではその数を2,783件まで増加したとしています。
姻族関係終了届けの受理件数 | ||||
平成18年 | 平成19年 | 平成20年 | 平成21年 | 平成22年 |
1,854 | 1,832 | 1,830 | 1,823 | 1,911 |
平成23年 | 平成24年 | 平成25年 | 平成26年 | 平成27年 |
1,975 | 2,213 | 2,167 | 2,202 | 2,783 |
どうして配偶者が死んだ後に義両親や兄弟との婚族関係を解消しようとするのでしょうか?今回はその背景と、実際に婚族関係を解消する、「姻族関係終了届」の出し方などをみていきます。
死後離婚が起こる原因と増加の背景
そもそも、死後に離婚するという法律的な制度はなく、民法第728条では下記のように明記されています。
(離婚等による姻族関係の終了)
第七百二十八条 姻族関係は、離婚によって終了する。
2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。引用元:民法第728条
つまり、配偶者が死亡してしまうと離婚はできないということです。それでも配偶者の死後に婚姻関係を解消することを「死後離婚」と呼んでおり、その手続きには「婚族関係終了届」という書類を提出する必要があるということです。
今問題になっているのは、配偶者の死亡をきっかけに、相手の親や兄弟との縁も切りたいというニーズが高まっているという点です。主に妻側からの請求が多いとされています。
夫の親族との関係を断ちたい
妻からの婚族関係を解消したいという要望が多いと言いましたが、多いのは夫が家業を継ぐから嫁に行って、夫が死んでしまった後も夫の両親と住み続けるのが苦痛だというものです。
姻族関係終了届を出した女性
「嫁だからやるのは当たり前と押しつけてくる。長男の嫁だから。頑張っているのに何も認められなかった、悲しい。」
引用元:NHK|おはよう日本
「27歳で息子を出産してから30年近くにわたって夫の両親と同居してきました。当時、私が看護師として働いていたので、『仕事と育児の両立は大変でしょう。私たちが面倒を見てあげる』と言われて、その気になったのが間違いでした。その後の同居生活で積もり積もった不満は、一言では言い表せません。
昨年の春、夫が仕事中に交通事故に遭い、亡くなりました。四十九日の法要で、夫の姉妹たちに『これからも両親をよろしくね』と言われたので、『残念ながら、もう親族ではないので、それはできません』とはっきり伝えたのです」
引用元:講談社|現代ビジネス
夫と一緒の墓に入りたくない
また別のケースとしては、自分の死後に夫と同じ墓に入りたくないというものです。
夫と同じお墓に入りたいですか?
離婚したいとは思いませんが、私は絶対に夫と同じお墓には入りたくありません。
引用元:yahoo!知恵袋
同じような方がいて安心しました。同居はしていませんが私は一応長男の嫁。夫は「妻は夫の家の墓に入るべし」という考えを持っています。それを聞いた時ぞっとしました。
引用元:yahoo!知恵袋
婚族関係を解消しても遺産は受け取れる
婚族関係終了届を出したとしても、戸籍にその事実が記載されるだけで、除籍扱いになることはないので、遺産相続などで遺産が受け取れないということはありません。
配偶者である以上必ず相続人になりますから、相続分は確保されているわけです。夫の両親との縁が切れて、相続権は保障される。こういった事情も死後離婚を増加させる要因の一つになっているのでしょう。
死後離婚の手続きをするには?
死後離婚をするために婚族関係終了届を出す際、特に制限や許可などは必要なく、生きている妻(配偶者)からの請求があれば比較的簡単に、しかも無料で手続きを進めることができます。
- 姻族関係終了届を本籍地または住所地の市区町村役場に提出
- 届出者の印鑑及び運転免許証などの本人確認書類を用意
- 本籍地以外の場合は配偶者の死亡の事実と配偶者の生存が確認できるもの戸籍謄本
- 姻族の承諾は不要
この3点があれば手続きは終了です。
図:婚族関係終了届のサンプル
死後離婚をする際に注意すべき事
だれの許可もいらず、こっそり婚族関係を解消できるのは一見メリットのように見えますが、特に話し合いもなく進めていくとトラブルになるケースもありますので、注意が必要です。
義両親から一方的に関係を切られたと思われることは覚悟しておく
夫の両親にしてみれば、息子が死んだと同時期に関係を切られるわけですから、「見捨てられた」「見限られた」と感じる可能性は高いです。
「それから集まった親族に『もう親戚ではないし、扶養の義務もなくなった』ことを告げました。予想はしていたことですが、『どういうこと?』『頭がおかしくなったの?』『お母さんを見捨てるつもり?』『身勝手すぎる』とハチの巣をつついたような騒ぎになりました。
それでも、もうこの人たちと一生関わり合いにならなくて済むと思えば、どんな言葉を浴びせられても平気でしたね。相続も済んでいましたし、保険金も入った。年金も十分もらえるので不満も不安もありません」
こういった行為を身勝手だと揶揄される可能性は十分にありえます。家政婦のように扱われているような事情があれば心中はお察ししますが、それでも関係の悪化がおこりえることは覚えておきましょう。
義両親の扶養義務がないことを盾にしない
残された義両親の世話をしなければいけないと思っている方も多いと思いますが、実は両親の扶養義務が生じるのは家庭裁判所が扶養義務があると判断した時のみになります。
だからと言って、「私に扶養義務なんてないですよね!?」と食ってかかるとトラブルの元になりますから、難しい話ではありますが、きちんと話し合って、協議の上、今後のことを決めていくのが良いかと思います。
保険金や相続財産の扱いをどうするか
一般家庭では起こり得ることではありますが、妻が相続した財産や、死亡保険金の扱いを巡ってトラブルになることはあります。義両親にしてみれば一緒に住んでいる以上家に入れろと言ってくるかもしれませんが、一応財産は妻である配偶者のもので、扱いは自由です。
もしかしたら、いくらかはお世話になった分として渡しても良いと思っているかもしれませんが、義両親から「渡せ」と高圧的な態度で言われてしまったらその気も失せるでしょう。
ここでもやはり話し合いで解決できるのが一番ですが、どうしても争いが避けられないない場合は、弁護士に相談して、仲裁に入ってもらうことも検討しなければいけません。
まとめ
死後離婚という現代の闇について触れてきましたが最終的には法律よりも自分たちの感情になってきますので、誰かの死でことを動かす前に、どう言った解決方法があるのかを、生前から話し合っていただくことをおすすめします。