離婚慰謝料の計算方法を徹底解説|算定基準と慰謝料が高額になるケース

離婚時の慰謝料を請求する際、まずは慰謝料の額を計算しなければ相手に慰謝料の請求はでません。もしあまりにも相場を無視した慰謝料を請求すると、相手から慰謝料の減額請求を受ける可能性もありますし、場合によっては慰謝料の請求に失敗する可能性もあります。

そこで今回は、離婚慰謝料の計算方法や、計算に必要な要素などをご紹介していきますので、参考にしていただければと幸いです。また、慰謝料の相場については「離婚慰謝料の相場とできるだけ慰謝料を高額請求する方法」をご覧ください。

そもそも離婚慰謝料の相場はいくら?

では実際に、離婚慰謝料を計算する手順をご紹介していこうと思いますが、実は離婚慰謝料には「離婚原因慰謝料」と「離婚自体慰謝料」という2つの種類があり、それぞれの合計を「離婚慰謝料」として計算していきます。

【離婚原因慰謝料】 + 【離婚自体慰謝料】

この二つを合わせたものが一般的な【慰謝料】と呼ばれるものになります。

 離婚原因慰謝料の計算方法

離婚原因慰謝料とは、浮気や不倫、DV、モラハラなど結婚生活中に受けた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料のことで、一般的に離婚慰謝料といえばこの離婚原因慰謝料のことだと思って良いでしょう。

表:離婚原因慰謝料の相場

離婚原因 離婚原因の基本慰謝料の相場
浮気不倫(不貞行為) 120万円~240万円
悪意の遺棄  60万円~240万円
精神的・肉体的暴力(DV)  60万円~120万円
その他の理由  12万円~120万円

離婚自体慰謝料の計算方法

不倫やDVが理由で離婚する状況を招いた事自体に対する慰謝料のことを言い、基本慰謝料(120万円)に相手の年収の3%、実質的婚姻年数をかけることで慰謝料を計算します。

【基本慰謝料(120万円)+相手の年収の3%×実質的婚姻年数】 × 有責度 × 調整係数

実質的婚姻年数とは

実際に結婚生活を送っていた期間のことです。5年の場合は『5』、10年の場合は「10」となり、上限は「20」までとなっています。

有責度とは

相手が一方的に悪いときは「1」、自分にも非がある場合、その度合いによって「0.9~0.2」の間で決定していく数字です。お互いに同程度の責任がある場合は0とし、離婚慰謝料は0円ということになります。

有責度の程度 有責度の指標
相手が極めて悪い場合
自分にも多少の非がある場合 0.9~0.2
お互いほぼ同程度悪い場合

※具体的にどう決まるかは裁判で総合的に判断されます。

調整係数とは

「0.7~1.3」の間で、離婚後の生活の困難性によって事情を勘案していくものです。


手に職を持ち夫と同程度の収入がある女性「0.7」
まったく職業経験がない女性「1.3」
調整係数の程度 調整係数の指標
配偶者と同程度の年収の方 0.7
就業経験のない方 1.3

離婚の状況別で慰謝料を計算

不倫や浮気の場合

不貞行為の回数、不貞行為の期間、浮気相手に子供ができた、不貞に至った経緯などを考慮のした上で、基準額120万円に増額される要因を加算していきます。

DVや家庭内暴力・モラハラの場合

DVによる身体的な暴力や、精神的な暴力であるモラハラの場合、慰謝料の相場としては50万円から500万円の間になります。慰謝料の相場に差があるのは今まで暴力を受けた回数や期間などの要素が、離婚慰謝料の計算に考慮されるからです。

悪意の遺棄の場合

「生活費を渡さない」「夫婦間の協力がない」「理由もなく同居を拒む」などが悪意の遺棄として挙げられ、この時に離婚慰謝料の相場は50万円から300万円になります。離婚慰謝料を計算する場合計算方法は基準額を100万円として、具体的な悪意の遺棄の内容から検討をします。

そのため、悪意の遺棄によってどのような状況に陥ったのか、具体的にどんな内容であったのかを明確にする必要があります。何かしらの証拠がある時には離婚の際にスムーズに話が進むように証拠を残しておくことも必要です。

性格の不一致の場合

離婚原因が性格の不一致の場合は慰謝料が請求出来ないと言う方も多いですが、離婚の原因が性格の不一致でも「お互いに原因がある」と納得できれば慰謝料請求はでき、120万円を基準額に増減していきます。

 

離婚慰謝料の具体的な計算例

では実際に離婚慰謝料が支払われたケースを参考に、慰謝料の計算をしてみましょう。

離婚慰謝料が500万円以上のケース

  • 妻:45歳の専業主婦で結婚生活15年
  • 夫:50歳会社員、年収は750万円
  • 離婚原因:夫の不倫
  • 有責度:非常に悪い
  • 子供:なし

離婚原因慰謝料

浮気(240万円)ですが、間をとって180万円とします。

離婚自体慰謝料

【基本慰謝料(120万円)+(年収720万円×3%)×実質的婚姻年数(15)】
× 有責度(1)×調整係数(1.3)=577万円
【合計=離婚原因慰謝料(180万円)+離婚自体慰謝料(577万円) =757万円】

離婚慰謝料が100万円以下のケース

  • 妻:26歳事務職、月収13万円
  • 夫:28歳会社員、年収340万円
  • 結婚生活:3年
  • 離婚原因:性格の不一致

離婚原因慰謝料

その他婚姻を継続しがたい重大な事由に該当、最高120万円ですが、今回は間をとって60万円に。

離婚自体慰謝料

【基本慰謝料(120万)+(340万×3%)×実質的婚姻年数(3)】
× 有責度(0.2)×調整係数(0.9)=27.1万円
【合計=離婚原因慰謝料(60万)+離婚自体慰謝料(27.1万)=87.1万円】

このケースでは慰謝料総額は87.4万円となります。あくまで指標ではありますが、離婚の慰謝料を知る上で参考になればと思います。

 

離婚慰謝料の計算基準と慰謝料の額を左右する要素

離婚慰謝料を計算するには、まずはどう言った項目が計算の基準になるのかを知る必要があります。離婚慰謝料の計算に必要な要素には何があるのかは、下記の基準などを総合考慮した上で、具体的な慰謝料額が決まります。

  • 婚姻関係が破綻した経緯や原因
  • 有責行為の態様(不倫・DV・モラハラなど)
  • 有責行為の期間・回数・程度・継続性
  • ケガや障害(後遺症)の程度
  • 不貞行為に至った経緯
  • 精神的な苦痛の程度
  • 関係修復への努力や誠実性
  • 年収・資産の状況
  • 社会的地位
  • 生活費の不払い・離婚後の態様
  • 婚姻の際の経済的負担
  • 年齢・性別・職業
  • 別居期間
  • 別居にいたった経緯 など

慰謝料を計算したものの、相手の資産や収入がなければ慰謝料の請求は無意味ですので、資産をよく計算しておく事も肝要です。

婚姻期間の年数

離婚慰謝料の計算において着目される要素の一つに、婚姻期間というものがあります。単純に婚姻期間が長いほど、離婚時に請求できる慰謝料は高額になっていきます。

婚姻期間は責任の程度とセットで考えられる

慰謝料の基本は「相手に与えた精神的苦痛の度合い」によって決定していく為、相手の責任が重い(有責行為が重い)ほど、慰謝料は高額になっていきますが、その責任の重さと、婚姻期間の年数はセットで考えられるケースが多くなります。

下記の表は千葉県弁護士会が編纂した算定表になり、婚姻期間を中心に分類し、不貞行為の場合の悪質性を責任の程度(軽度、中度、重度)で絞りにかけて金額を算出したものです。

表を見ると、婚姻期間が20年以上の場合は800万円以上になるとありますが、実際にはここまで増額するとはまずありえませんので、あくまで参考程度にとどめておくことをおすすめします。

表:婚姻期間と責任の程度が慰謝料の額に与える関係図(単位:万円)

婚姻期間 ~1年 1~3年 3~10年 10~20年 20年~
責任軽度 100 200 300 400 500
責任中度 200 300 500 600 800
責任重度 300 500 700 900 1000

離婚に至った原因

なぜ離婚にいたったのか、その離婚原因も慰謝料を計算する際には重要なポイントになります。不倫、DV、モラハラ、悪意の遺棄など、離婚に至った原因によって慰謝料を計算した時の金額は変動します。

離婚原因の継続期間

不倫やDVをされていた期間が長いほど、慰謝料の額は高額になっていきます。半年や1年程度であればそこまで高額請求することはできませんが、3年や5年という長期になれば、慰謝料は高額になっていきます。また、不貞行為などは回数や頻度も計算する際の参考にされます。

相手側と自分との年収差

慰謝料を請求する相手の年収が高いほど慰謝料の額は高額になっていきます。反対に自分の年収が低くても、相手との年収に差が生まれれば、慰謝料は高額になるでしょう。

社会的地位

年収差にも関係してきますが、慰謝料の請求相手が社会的に地位のある方(例えば社長など)の場合、慰謝料の計算額が高くなる傾向にあります。

子供の有無

夫婦間に子供がいる場合や、不倫相手との間に子供ができた場合は慰謝料の相場は高くなっていきます。

離婚慰謝料の計算において注意すべきこと

最後に、離婚慰謝料を計算する際に注意すべきものを確認していきましょう。

財産分与も慰謝料とは分けて計算する

法律において、慰謝料と財産分与は別々のものと考えているため、財産分与は原則として別々に算出して請求することをおすすめします。しかし、どちらもお金の問題ですから「財産分与」と「慰謝料」を含めて請求する場合こともできます。

ただ、一緒に計算すると総額が低くなるケースもありますから、相手方が慰謝料の支払いに応じない場合でもない限り、含めて請求することは避けた方が良いでしょう。

通常、財産分与は5:5の比率になるケースが多いですが、これに慰謝料の額を鑑みて財産分与の比率を変える方法があります。これを「慰謝料的財産分与」と呼びます。

養育費は慰謝料とは別に計算する

養育費も財産分与と同じで、慰謝料とは別物と考えるため、慰謝料の請求と養育費の請求は別々に行うのが一般的です。将来子供が大きくなり、養育費の額に増額などの変動が起きた際、養育費を慰謝料として支払っていると、本来の総額としては正当に支払っている金額でも、「養育費を本来の額では受け取っていない」という主張をされる可能性があります。

支払う側も納得のいかない事が多いと思いますので、養育費を慰謝料として含めるのは避けた方がいいでしょう。

離婚慰謝料をできるだけ増額させる方法

次に、離婚慰謝料を計算したら、できるだけ増額させるための手順について見ていきましょう。

協議離婚ではある程度慰謝料の相場を無視できる

離婚裁判であればある程度の相場を考慮した金額を提示されることが多いですが、得意に裁判の介入がない協議離婚であれば、ある程度の相場を無視した慰謝料を請求できるため、相場以上の慰謝料を獲得できる可能性が高まります。

例えば、不倫が原因で離婚した場合の慰謝料で700万円を請求していた場合でも、相手がその金額に納得して請求に応じれば、その700万円がそのまま離婚慰謝料の額として決定していきます。

離婚原因の証拠を集める

離婚慰謝料の金額を引き上げる方法として、最も有効なのが証拠を集めることです。

不倫や浮気の場合の証拠

  • 2人がラブホテルに出入りしている写真
  • メールなどで明らかに肉体関係があったと思われるようなやり取り
  • 本人や浮気相手が不倫の事実を認めたことを記録した念書 など

DVやモラハラを受けた場合の証拠

  • 外傷ができたならば病院の診断書
  • 外傷を撮影した日付入りの写真
  • メンタルクリニック等の受診記録や診断書

悪意の遺棄の場合

  • 生活費の振り込みが無いことが分かる通帳記録
  • 別居に至った経緯や別居が始まった記録
  • 別居先を特定できる資料(賃貸借契約書など)

その他の重大な理由の場合

他の項目と同じく、詳細を書き留めた記録などがあると良いでしょう。

離婚裁判や訴訟を起こす旨を伝える

他にも、離婚裁判や訴訟を起こすことを伝えておくと、相手も動揺して慰謝料の支払いに王子やすくなる傾向があります。実際に裁判を起こすのは相手が慰謝料の支払いに全く応じない時が多いですが、そもそも慰謝料が取れない可能性を考慮すれば、離婚裁判を起こすこと自体は有効な手段ではあるでしょう。

ただし、裁判を起こす場合は法定離婚事由という裁判でも認められるような理由が必要になりますし、期間もかなり長くなりますので、その点だけはあらかじめ留意しておく必要がありますね。

慰謝料請求が得意な弁護士に相談する

離婚慰謝料の増額には、弁護士に相談するという選択肢もあります。

離婚に詳しい弁護士であれば、どういった証拠があれば慰謝料を獲得しやすいということも熟知していますし、相手方との交渉もあなたが有利となるように勧めてくれますので、どういったポイントを抑えておけば有利にことが運ぶのかなど、事前に相談しておくことで大きなアドバンテージになるかと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

離婚慰謝料の計算方法などを詳しく解説してきましたが、いざ離婚で慰謝料を請求する際にどんな計算方法で算出すれば良いのかなどを迷われた場合は、参考にしていただければと思います。